麦藁帽子を探しに 〜霧積温泉〜
「母さん、僕のあの帽子どうしたでせうね。 ええ、夏碓氷から霧積へ行く道で渓谷へ落としたあの麦わら帽子ですよ」。
この西條八十の詩、というよりもそれをモチーフにした森村誠一の小説「人間の証明」で一躍有名になった霧積温泉。松田優作主演の同名の映画でも登場しましたね。現在は秘湯と呼ばれていますが、明治の初めごろは軽井沢よりも栄えていたという霧積温泉をご紹介します。
霧積温泉
霧積温泉は明治初期、旅館が40軒以上もあるリゾート地でした。伊藤博文や勝海舟、与謝野晶子など明治の著名人、文化人が多数訪れたそうです。しかし1893(明治26)年に信越本線・横川-軽井沢間が開通して軽井沢がリゾート地として整備され、その座を奪われます。さらに1904(明治34)年には台風の大雨による土砂災害で壊滅的な打撃を受け、旅館は1軒が残るのみとなりました。
昔は馬車や人力車でやってきたそうですが、現在、車で行くのであれば、東京方面からは上信越自動車道・松井田妙義ICを降りて横川から国道18号(旧道)を、軽井沢からは旧道で碓氷峠を横川方面へ下り、霧積川に沿って山を登っていきます。
今回は横川から中山道坂本宿を抜けるコースを進んでみます。坂本宿は江戸から数えて17番目の宿場で、碓氷の関所と碓氷峠の間にあるため、ここで休む人も多く、参勤交代の大名もよく利用したそうです。現在は多くの建物が新しくなってしまっていますが、所々に残る宿屋の建物や水路を配した広くて真っ直ぐな道路が往時を思わせます。

その坂本宿を抜けると玉屋ドライブインのある交差点を右折。看板が出ていますのでお間違えのないように。霧積川に沿ってさかのぼり、しばらく進むと霧積ダムがあります。
このダムは1976(昭和51)年にできたもので、堤高は59mあり、放水されているときの眺めは圧巻です。さて、ここから先は道の幅が狭く、車がすれ違えないので運転には注意が必要です。また、携帯電話も圏外になります。
霧積ダムから約7km、つづら折の山道を登っていきます。途中、小さな砂防ダムで猿が遊んでいました。霧積温泉に近づいたところで、右側に滝が見えてきます。
金洞の滝といわれるこの滝は落差10mほどで、道路から近いので迫力があります。駐車スペースもありますので、車を降りてじっくりと見ていくとよいでしょう。








金洞の滝から300mほどで、きりづみ館に到着です。
きりづみ館は1971(昭和46)年にできた旅館で、残念ながら今年4月に閉館となりました。
車で進めるのはここまでです。きりづみ館横の無料駐車場に車を置いて、霧積温泉唯一の旅館、金湯館へと山を登ります。
木々が繁り、昼なお暗い山道を20分ほど歩くと赤い屋根の建物が見えてきました。
この金湯館は1883(明治16)年に建てられ、翌年に開業しました。以来130年にわたって、当地を訪れる人をもてなしています。
金湯館は山小屋を思わせる入り口、歴史を感じさせる建物で何かほっとした気分になります。
出迎えてくれた3代目女将の佐藤みどりさんによると「『人間の証明』のころは今の3倍くらいの人が来ていた」とか。伊藤博文が泊まった部屋も保存されていて、130年前の建物を少しずつ修繕しながら今まで営業を続けてきたそうです。
山登りでかいた汗を流そうと温泉へ。金湯館は霧積温泉の湯元で、お風呂は源泉かけ流し。風呂場のドアを開けるとほんのりと硫黄のにおいがします。
泉質はカルシウム-硫酸塩泉、39度と温度が低めで、ゆっくりとお湯を楽しむことができます。一緒にお風呂に入った初老の男性は毎年何回もここを訪れるのだとか。
お風呂を上がって、屋外の休憩スペースにいると、湧き水を引いているのでしょうか、前にある洗面所の水が出しっぱなしになっています。持っていたペットボトルにその水を汲んで飲み干すとこれまで飲んだことがないくらいの美味しさでした。
夜の静かさと星の美しさもまた格別です。携帯も通じず、周りには何もない。そんな環境の中でゆったりとするのもいいものですね。1泊とは言わず、2泊、3泊すれば、もっとこの場所の良さがわかるかもしれません。



今回は森が緑でいっぱいの時期に来ましたが、冬もまた素晴らしそうです。雪と湧き水が凍った氷がとても美しいのだとか。冬場は山道が危ないので、麓の玉屋ドライブインまで送迎してくれます。
また、周辺には剣ヶ峰、鼻曲山といった比較的手軽にハイキングが楽しめるところもあります。軽井沢からも2時間半ほどで歩いてくることができますので、ぜひ一度お試しください。昔の賑わいが想像できないくらいの秘湯、霧積温泉。この温泉と旅館を長く守っていってほしいと思いました。

【霧積温泉 金湯館】
群馬県安中市松井田町坂本1928 TEL.027-395-3851
https://www.kirizumikintokan.com/
※夏期、宿泊の場合はきりづみ館、あるいはJR横川駅まで送迎してくれますので、お問い合わせください。
※周辺にはクマ、イノシシ、サルなどを野生生物がいますので、クマ鈴などを持参したほうがよいでしょう。
また、日が暮れると真っ暗になりますので念のため、懐中電灯もあったほうが安心です。





















