軽井沢エリアの情報は数あれど、
何となくどれも似ていて新鮮味がないような…。
そんな印象をお持ちの皆様へ、ちょっとレアなレポートをお届けします。
紹介スポットは、軽井沢を拠点に“見る・味わう・楽しむ”をテーマに、
佐久・小諸・追分・草津方面など広範囲からセレクト。
地域に根ざしたおすすめスポットを紹介します。
Vol.9
旧軽井沢、新緑散歩。
リゾートシーズンの幕開けを告げる軽井沢の新緑。例年だと5月中旬から6月上旬までがピークだが、今年は朝晩冷え込む日が続き、6月の半ばに入ってもみずみずしい新緑に彩られている。萌える緑と苔むした石垣が織りなす、旧軽井沢ならではの新緑風景を紹介しよう。
まず訪れたのは、「万平ホテル」の裏に広がる「幸福の谷」。その昔、宣教師たちがハッピーバレーと呼んだこの地は、日本を代表する文豪・川端康成の別荘があったことで知られ、この別荘に滞在した堀辰雄が『風立ちぬ』の終章を記したとされている。現在でも、初夏のやわらかな木洩れ陽が照らし出す石垣と石畳は情感豊かで、此処に身を置くだけで文豪達の足跡に思いを馳せ心が充たされる。
周囲には数十年にわたり年輪を刻んできた樹木が林立し、若葉が放つ深い香りに心が昂ぶる。
「幸福の谷」から「万平ホテル」へ向かって、古き良き時代の面影を色濃く残す石垣の小径が延び、幾筋もの木洩れ陽がきらきらと輝いている。この辺りは、真夏のハイシーズンを迎えると観光客で賑わうが、平日の朝はすれ違う人もまばら。旧軽井沢の風情そのままに、我が身を委ねることができる。
「万平ホテル」の前を抜け、「オーディトリアム(講堂)通り」に入ると、講堂の名のとおり、建築家“ウィリアム・メレル・ヴォーリズ”が手掛けた「軽井沢会集会堂」・「ユニオン・チャーチ」・「軽井沢会テニスコート・ハウス」など、かつての別荘族が音楽会や講演会などを楽しんだ軽井沢の歴史的建造物が続く。
目にも鮮やかな新緑の木立の中に建つヴォーリズ建築は、若葉の命が吹き込まれたかのように輝き、今もなおその活力を放っている。決して過去の遺産ではなく、今を生きている。
古い洋館を活かしたレストランやギャラリーなどが点在する「ショー通り」を経由し「旧軽ロータリー」へ抜けると、いつもと変わらぬ雑踏の軽井沢。そして大通りから枝分かれするように延びる「ノーマンレーン」に入ると、再び苔むした石垣が続く森の小径に入る。
ほんの数分歩くだけで、今と昔が切り替わる軽井沢は、新緑の輝きを受けてその表情を変えて行く。
我が国初の別荘地として誕生し、百数十年にわたり愛されてきた旧軽井沢。新緑の小径を歩き、人、森、歴史が織りなす風景に、あらためて心を打たれた。


