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Vol.15

信州味噌発祥の地、安養寺

信州は言わずと知れた味噌の名産地。驚くべきことに日本で消費されている味噌の半分近くが信州味噌だという。そんな超メジャーな信州味噌の発祥地が佐久市にあると聞き、出かけてみた。

 味噌は、日本の食卓に欠かせない伝統的な発酵食品。日本全国至るところに味噌蔵があり、原料をはじめ麹や塩の割合、熟成期間などが気候風土によって異なり、多種多様な味噌が生産されている。信州味噌の産地である長野県は、47都道府県のなかで味噌生産量第一位。全国シェアは48%(2015年)と群を抜いている。
 信州味噌がこれほどメジャーになったきっかけは、関東大震災及び太平洋戦争の空襲で甚大な被害を受けた東京に向けて長野県から送った救援物資であったという。淡い色合い、クセのない優しい味わいが好評で、東京からさらに全国へと普及した。

 長野県内には現在、TVコマーシャルでお馴染みの大手メーカーをはじめ大小様々な味噌蔵が点在しているが、その信州味噌の発祥地といわれているのが佐久市安原にある臨済宗妙心寺派の宝林山安養寺(あんようじ)。安養寺は、鎌倉時代に南宋(中国)に渡った禅僧・心地覚心(しんちかくしん)が開創した古刹で、南宋での修行中に味噌の技法を伝承され、帰国後、寺領で栽培した大豆を使って味噌造りを始めた。心地覚心は、金山寺味噌を考案したことでも知られている。

 現在の安養寺は貞治年間(じょうじねんかん・1362年~1367年)に心地覚心の遺言により、弟子の正眼智鑑禅師が移転した寺で、戦国時代には武田信玄の庇護を受け寺院を修築。武田信玄は行軍の兵糧として栄養価が高く保存の効く川中島溜(かわなかじまたまり)を作らせたことから、味噌造りが信州各地に広まったとされている。

 JR小海線・岩村田駅から約6㎞。宝林山安養寺は、山を背に田園地帯を望む高台にあり、参道の入口に六地蔵と石門が建っている。禅寺らしい簡素な造りで、手入れの行き届いた楼門と石垣が静かに歴史を物語り、境内に入るとすっと背筋が伸びるような凜とした空気に満ちている。
 楼門をくぐりその先にある石段を上ると本堂が眼前に現れ、右手に方丈と鐘楼が建っている。鐘楼の傍らに立つと、かつては信州味噌のルーツとなった大豆や米を育てていたであろう田畑が眼下に広がっている。

 そして今、悠久の時を超え、信州味噌発祥の地“安養寺”の名を冠した味噌を醸造している味噌蔵が旧中山道・岩村田宿にある。1853年創業の老舗・和泉蔵だ。平成16年から5代目社長の阿部博隆さんが、安養寺の農地で栽培された大豆を用いた味噌造りに取り組み、昔ながらの伝統的な製法で2年以上じっくりと丹精込めて熟成させ、“安養寺味噌”を復活させた。
 味噌の種類によっては、短いものだと1週間程度の熟成で出荷される味噌すらあるなか、2年以上という熟成期間は破格の長さだ。

 安養寺の大豆と佐久平一帯で収穫された厳選米、天然塩を使用し、160年変わることのない老舗ならではの知と技を注ぎ込んだ和泉蔵の“安養寺みそ”は、くせがなくとてもまろやか。豚汁を作ってみたところ、コク・甘み・香りのバランスがとれ、優しくて素直な味わい。それでいて味噌独特の豊かな芳香が具材によくなじみ、自然の味を感じる。出過ぎず、控えめにもなりすぎていない。この味噌なら、どんな料理にでもよく合うはず。

 味噌の熟成に適した冷涼な気候、浅間山系と八ヶ岳山系の清冽な伏流水、豊穣な実りをもたらす大地…、佐久には、味噌造りに最適な条件が見事に整っている。鎌倉時代、安養寺を開創した禅僧・心地覚心は、佐久に初めてやってきたとき、味噌造りにこれほど適した場所はないと思ったのではないだろうか。信州味噌のルーツを再現した和泉蔵の“安養寺みそ”を味わい、信州味噌が日本全国に広まっていった理由がよく分かった。

 そして和泉蔵の“安養寺みそ”は、佐久の地域おこしにも活かされ、佐久商工会議所と佐久市内のラーメン店主がタッグを組んで、佐久でしかできない新しいみそラーメンを企画。各店主が“安養寺みそ”を使って自店の個性を活かし、地元野菜とみその組み合わせを楽しむラーメンや辛みそ風、みそ豚骨などバラエティーに富んだラーメンを創作し、『信州佐久安養寺ら~めん会』を発足。現在、佐久市内の15店で食べることができる。
 鎌倉時代に始まった信州味噌の原点“安養寺みそ”は、今、佐久のご当地ラーメンに活かされ、新たな広がりをみせている。

お問い合せ先

宝林山 安養寺

住所:長野県佐久市安原1687 番地

和泉蔵 合資会社 和泉屋商店

住所:長野県佐久市岩村田789-2 電話:0267-67-2062
http://www.izumikura.com/

信州佐久安養寺ら~めん会WEBサイト

http://anyouji-ramen.com/